Q5−11
不貞をした側からの離婚請求は、認められるのでしょうか。
A5−11
A5−10のとおり、長年にわたり別居しており、夫婦としての実体が全くなくなっている場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由がある」とは言えるでしょうが、不貞を行うなどして、自ら破綻の原因を作った配偶者(「有責配偶者」と言います)からの離婚請求を認めることは、相手方にとって踏んだり蹴ったりであるとして、一切認めないというのが、過去の最高裁判所の判例でした(「有責主義」と言います)。
しかしながら、昭和62年9月2日の最高裁判所の大法廷判決は、それまでの判例を変更し、従来の「有責配偶者側からの離婚請求は認めない」という原則を維持しつつも、「一定要件の下では離婚請求を認容する」という判断をしました。
すなわち、
「婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合には、当該離婚は、もはや社会生活上の実質的基礎を失っているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえって不自然である」(「破綻主義」と言います)
「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないものとすることはできないものと解するのが相当である。」
「このような場合には、もはや5号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰謝料により解決されるべきものであるからである。」
と判断し、東京高等裁判所に審理を差し戻したのです。
この事例では、差戻審の東京高等裁判所は、離婚を請求されていた妻が、離婚が認容される場合に備えて予備的に申し立てていた財産分与1000万円、慰謝料1500万円の合計2500万円全額の支払いを条件に、離婚を認める判決を言い渡し、更に、その後、最高裁判所において和解が成立したそうですが、同居期間が12年であったのに対し、離婚が成立するまでの別居期間は、実に40年以上でした。
この最高裁判所の判例変更後、判決の流れは有責主義から破綻主義へと変わりつつあり、現在では、別居期間だけを見れば、高等裁判所では8年程度の別居期間で離婚を認めた判例があり、地方裁判所では5年程度の別居期間で離婚を認めた判例もあります。
とは言え、他方で、より長期間の別居期間であっても離婚を認めない判決もありますので、一概に別居期間だけで判断することはできません。
なお、最高裁判所平成2年11月8日第1小法廷判決は、「有責配偶者である夫からされた離婚請求において、夫が別居後の妻子の生活費を負担し、離婚請求について誠意があると認められる財産関係の清算の提案をしているなど判示の事情のあるときは、約8年の別居期間であっても、他に格別の事情のない限り、両当事者の年齢及び同居期間との対比において別居期間が相当の長期間に及んだと解すべきである。」と判示しています。
また、最高裁判所平成6年2月8日第3小法廷判決は、「有責配偶者である夫からされた離婚請求であっても、別居が13年余に及び、夫婦間の未成熟の子は3歳の時から一貫して妻の監護の下で育てられて間もなく高校を卒業する年齢に達していること、夫が別居後も妻に送金をして子の養育に無関心ではなかったこと、夫の妻に対する離婚に伴う経済的給付も実現が期待できることなど判示の事実関係の下においては、右離婚請求は、認容されるべきである。」と判示しています。
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