法曹の養成/改革の本旨に戻らないと


 頼りがいのある、身近な存在になってほしい。

 国民の期待とは裏腹に、司法は敷居を高くしたまま、優等生の枠から抜け出せないのではないか。

 法科大学院の修了者を対象にした今年の新司法試験の合格率が、5年連続で過去最低を更新した。

 門が狭くなる一方の結果に、そんなふうに思ってしまう。

 6回目の今年は最多の8765人が受験し、合格者は2063人。

 合格率23・5%は、法学未修者コースの合格率16・2%とともに過去最低となった。

 未修者コースに込められた、さまざまな分野から多様な人材を受け入れるという理念は、どこへいってしまったのか。

 政府の司法制度改革審議会が改革の意見書を提出して、今年で10年になる。

 「法の支配」を社会の隅々に行き渡らせ、泣き寝入りなどをなくすのが改革の原点だった。

 そのために欠かせないとしたのが法曹人口の増大である。

 意見書は、合格者を「2010年ころに年間3千人」「法科大学院修了者の7〜8割が合格」という目標を示した。

 実態はかけ離れたものになっている。

 新試験の導入後、それまでの4〜5倍の合格者が送り出されるようになり、弁護士志望者の就職難が新たな問題として浮上した。

 同時に、指摘されだしたのは修習生の「質の低下」である。

 こうした声に押される形で、政府は合格者の抑制と大学院の格差是正に乗り出した。

 確かに、法科大学院の74校は多過ぎるし、大学院間の合格率の開きも見過ごしにできない。

 文部科学省が、合格率の低迷が続く大学院への補助金を削減するのも致し方ない面はある。

 しかし、改革の本旨を見失ってもらっては困る。

 社会には法的支援を得られずに埋もれた人はたくさんいる。

 財産や年金をだまし取られても、気づいていない人、相談する術(すべ)を持たない人がいる。

 高齢化が進み、人と人の絆が弱くなれば、そんなケースはもっと増える。

 社会に分け入り、声を拾い上げ、親身に相談に乗る。

 そんな行動派弁護士が、もっとほしい。

 一方で、裁判所の支部管内に弁護士が1人しかいない司法過疎地は減っているが、弁護士の都市偏在は変わらない。

 こうした状態を解消するには、法科大学院を分散配置し、さまざまな経歴を持つ学生を集め、多様な法曹の養成に努めることだ。

 弁護士が社会正義の実現に不可欠と理解されるようになれば、雇用に弾みがつき、就職難もなくなる。

 社会はエリートの法曹ばかりを望んでいるわけではないということだ。