司法修習生が就職難 司法制度改革 合格者増やし弁護士急増

  2011年9月23日 中日新聞

 難関の司法試験に合格した司法修習生が、法律事務所に入れず、就職難にあえいでいる。司法制度改革で合格者を増やした結果、弁護士が急増。行き場所がなく、いきなり開業したり、弁護士登録をしなかったりするケースが出ている。 (境田未緒、稲田雅文)

 「何とかなると思っていたんですが、甘かったですね」。司法修習が終わる十一月まで一カ月余り。弁護士を志望する東海地方出身の男性(26)は、まだ就職先が決まらない。

 法科大学院を修了して司法試験に合格。昨年十一月下旬から実務修習などを積みながら就職活動を始めた。国際弁護士を目指し、募集の多い東京を中心に三十〜四十の法律事務所にエントリー。約十事務所の面接に臨んだが、駄目だった。

 「弁護士の仕事は増えていないのに、司法試験の合格者だけ増やしたら、厳しくなりますよね」。半ばあきれたようにため息をつく。

 北陸地方出身の男性(29)は八月、関東地方の法律事務所から内定を取り消された。「仕事が減ったから」と経済的な事情を理由にされた。現在は愛知県で就職先を探すが「もう地域はどこでもいい」と切羽詰まっている。

 政府は二〇〇二年、「法曹人口が法的需要に対応できていない」と、司法試験合格者を一〇年ごろには年間三千人とする司法制度改革推進計画を閣議決定。約千人だった合格者は〇七年から二千人を超え、今年も二千六十三人が合格した。計画には裁判官や検察官の増員も盛り込まれたが、それほど採用は伸びず、弁護士だけが急増している。

 日本弁護士連合会の調査では、弁護士を志望しながら就職先が未定の司法修習生は今年、七月末現在で43%に上る。同時期で〇七年は8%だったが、〇八年17%、〇九年24%、一〇年35%と年々、未定者が増えている。

 新人弁護士は、法律事務所に「イソ弁(居候弁護士)」として入り、先輩に学びながら経験を積むのが一般的だ。

 最近は就職難で、固定給をもらわず机(軒先)だけ借りる「ノキ弁」や、すぐに独立する「ソク独」が増加。弁護士活動をするには弁護士会への登録が必要だが、働く見込みがたたず会費を払えないため、登録を見送る人も年々増えている。

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 「研修で経験不足を痛感した。働きながら学びたい」「現場で指導してほしい」−。愛知県弁護士会が十四日、名古屋市で開いた「就活応援パーティー」。参加した十八人の修習生は、自己アピールで法律事務所への就職を強く希望した。

 同弁護士会は昨年から、就活中の修習生と事務所代表らを引き合わせるパーティーを開催。会のニュースにも顔写真や自己PRを掲載し売り込んだ。

 「何とか落ち着き先を見つけてきたが、今年は限界かも」と語るのは、同弁護士会副会長の田口勤弁護士。ことし県内で修習し、弁護士登録を希望する七十八人のうち、就職未定者はまだ二十四人いる(九月十四日現在)。

 昨年、就職が決まらなかった三人の修習生は、弁護士会の有志グループが半年間、家賃を免除して事務所を提供。仕事を紹介したり、相談に乗ったりして弁護士活動が軌道に乗るよう支援してきた。

 事務所側も雇いたい思いはあるが、不況もあって仕事は増えていないのが実情。ある弁護士は「ノキ弁を入れるにしても机やパソコンが要る。そんな余裕はない」と話す。

 田口弁護士は「金にならない仕事もする社会貢献の精神が弁護士には必要。その精神は先輩弁護士の姿を見て覚える」と指摘。「就職できないと学ぶ機会もなく、公益活動への心意気を持たない弁護士が増える可能性がある」と懸念する。